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 クイックハルト (郁雄/吉武 /文芸社)


 こちら の作者さんから献本していただきました。ありがとうございます。
 なお、記事の内容に関しては一任してもらっていますのでひいき目とかそういうのは無しで、いつも通りの感想でいきます。むしろ気負って読んだのでいつもより辛口になっている気があるかも(汗)。

 読み終えた感じではまあまあな面白さ、というところでしょうか。あともったいないという印象が終始拭えなかったです。

 この作品はとにかく世界設定が奇抜で興味深いです。ネット世界とかはよくありますがそれを自己流にアレンジした遠未来の不思議な世界観だと思います。

 キャラはそこそこな立ち具合で、ヒロインの巨乳描写が秀逸(笑)。作者さんは心からの巨乳好きのようですね。
 個人的には近恵さんがお気に入り。前時代的な話し方で良妻賢母という言葉が似合いそうな貴婦人です。素敵。

 ここから気になったところとか、不満な点とか。

 全体を通して、また特に序盤で展開が駆け足ぎみなので感情移入がしづらかったです。そのためキャラクターの言動が突発的に感じられて少し違和感を感じます。

 <昭和>の人が後代日本のことを詳しく知らないとはいえ、世界(未来)が「確実」に続いていくという事実を知ってしまっている設定はどうなのかな、と思いました。未来とは常に不確実性で包み隠されたものでなければ人々は明日に夢見ることはできないような気がします。明日が、明後日が不確実で不明瞭だから今日を精一杯生きて、より良い明日を迎えられるように進歩していくものではないでしょうか。小さいことかもしれませんが気になりました。

 キャラたちは自分たちがデータ上の存在であるということに疑問を抱かないのでしょうか。自分という存在が真の意味で肉体を持たないことに、己のアイデンティティを自らの内に認められるのでしょうか。下手したら自分は単なるコピーかもしれないとか(現代ならクローンかもしれないとか)途中でそういった描写がありましたがもっと早く、深く悩んで然るべき問題に感じます。

 もっとも理解しがたかったのがドライブスペース内での時間の経過。<昭和日本>は永遠に昭和を繰り返すという設定なのに住民は毎日を働いて一日ごとに前へ進んでいます。いつか平成並みの文化度に達し昭和の世界から逸脱すると思います。

 ストーリーの最後のところ、クイックハルトをする理由を理解できなかったのが少し後味が悪いですね。そもそもサイバーテロリストが、(破壊活動と防衛活動で力が拮抗するからクイックハルトで決着をつけよう)などという要求に普通、応えるでしょうか。(ドライブスペース側が負けたら「どうぞ壊してください」なんて言うわけないと思います。クイックハルトに負けたら自分たちの存在が消される)というのにこの決着方法はありえないと思います。テロリスト側が条件的に圧倒的不利ですよね。

 それとエンディング場面で何と言いますか、厳密に言うと話が終わってないです。良一と千早の関係は置いといて、肝心の(<嘆きのエヌ>)の正体や狙いや動機が一切不明。謎が謎のままで終わってしまっています。続きがないと本当の意味で終わったとは言えないような。

 全体的に振り返ってみますと、設定の奇抜さを活かしきれず普通のSF風なラノベに留まってしまった印象がとにかく後を引きます。文章は読みやすくそれなりに楽しめるのですが、どうせならもっと大風呂敷を広げてガリガリやってほしかったというのは贅沢な注文でしょうか。
 それと構成的に盛り上がりが弱かった気もしますね。序盤の日常から終盤の非日常への繋ぎが弱い感じ。後半の展開が(一通のメールで唐突に始まりますし。)紙幅が足りないのも原因だと思いますがもう少し焦点を定めて描写してもいいと思います。

 なんだかグダグダになってきたのでここで終了。ちなみに矛盾点、勘違いがあるかもしれないのでそこはご了承を。変に力んでしまいました……。
 てかメチャクチャ偉そうにあれこれ言ってますね(汗)。まあ結論としては悪くはないのだけど世界設定を活用してもう一捻り欲しかった、ということで。
 続きが気になるので2巻が出たら読みたいです。


 10/25(水)読了
 評価:★★★☆☆+





 吸血鬼のおしごとSP The Days Gone By (鈴木鈴/電撃文庫)


 ずっと積んでいてそろそろ終わらせないといけないな、ということでシリーズ終了後のおまけの短編集。
 全体的にコメディー調で懐かしい空気です。

「双月」
 亮史と上弦の出会いを描いた過去編。
 現代よりもより冷酷、もとい感情の稀薄な魎月が冷ややかですね。なんだか最終巻の亮史を思い出させます。

「ラディカル・クッキング」
 舞が亮史に手料理を振舞うドタバタコメディ。
 こんな感じだったんですよね、1巻のころは。いちおうはコメディのはずだったのになぜあんな脱線を……。

「ブラック・マンデー」
 これは面白かったです。ツキ視点で進む話は珍しいですし新鮮。最後の舞との掛け合いがツボでした。

 絵師さんのマンガとの連携も良かったです。こういうコメディな作品だったのに、と過去を思い出して溜め息が出ます(苦笑)。
 シリーズ最後に笑って終了。レレナ一同お疲れ様。


 10/25(水)読了
 評価:★★★★☆-





 三月、七日。 ~その後のハナシ~ (森橋ビンゴ/ファミ通文庫)


 こちらも終わらせなければ、ということで2冊目、最終巻。あー、清々しい面白さでした。

 清く正しい青春小説で何の変哲もない現代が舞台。だけど少年少女は恋に進学に頭を悩ませ胸を焦がします。
 前巻から半年経ち、三月と七日がその後の心情を持て余す話です。
 主人公はどちらかというと三月の方でしょうか。前半はひたすら悶々とした感情を抱くだけでやや退屈だったのですが、中盤以降は事態が悪化、ほとんどヤケになりながら己の感情を発露させていく様が見ていて非常に痛々しく、また限りなく共感できます。こういう思春期特有の融通の利かなさや視野の狭さなどの描写が本当に上手いですね。面白いです。

 題材はありがちではありますが心理描写は等身大の少年少女を感じさせてくれます。個人的には三月と赤坂のコンビが大好きです。男同士でしか分かり合えない共有感とかっていいですよね。
 ひとまずの落着を得たものの今後も色んなものに躓いて成長していくのでしょう。彼らの幸せを願わずにいられません。ファーラム。


 10/25(水)読了
 評価:★★★★☆+
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