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 ついこの間、長兄が結婚して次兄は結婚しているから順番で考えるなら次は僕が結婚だなぁ、なんて話がされるようになった。
 次は僕の番。
 といわれても僕はまだ学生で二十歳を過ぎたばかり。
 正直なところ結婚以前に異性と付き合うことにすらあまり想像が働かない。

 でも今日はふと「もしもこのまま独身だったら」という仮定が頭に浮かんできて、数十年後のそれこそ僕が五十、六十歳になるころの想像で、弟は結婚願望があるから結婚しているだろうし両親は他界しているであろうし、正真正銘ひとりっきりになっていたらどうだろう、と考えてみた。
 冷静に分析すれば正直わからない。
 そのときの気持ちも、もしかしたら一人暮らしに慣れてなんてことないかもしれないし、わりと大人数の家族に囲まれて育った生い立ちゆえに寂しくて堪らなくなっているかもしれない。
 そもそもそれまで生きていられるかもわからないし。
 だけどおそらく、僕の性格を考えるとけっこう甘ちゃんで独りでいることを好みつつもどこかで誰かとつながっていたいと望んでいる寂しがり屋なところがあるから、きっと空しくて悲しくなるのではないかなぁ、とか思った。
 当たらずとも遠からじ。
 いや、どちらかといえば当たりに近いのではないかな。
 そんなことを考えていたら愚かなことに、いまから将来のことが不安になってきてしまった。

 それで遅い晩飯を食べながら長兄と父といろいろ話をしてみた(長兄は新婚だけど今日はうちにお泊りなのです)。
 長兄はやっぱりまだ結婚したてということもあってあまり参考にはならなかったけど、父は根っこの部分でだいぶ僕と性格が似ているところがあるので(正確には僕が似てるのだけど)ずいぶん参考になった。
 父は学生のころはまさか自分が結婚するとは思っていなかったらしく、でもそれは結婚願望がないというわけではなくて、純粋に学問を究めたかったのだという(この辺からして息子の僕とは次元が違う)。
 それから教員になり、紆余曲折があって母と結婚したらしい。
 そういう話を聞いても「父は頑固ではあるけど頭は切れるし男前だから結婚できるよなぁ」とか思ってしまってあまり深くは捉えていなかったのだ、いままでは。
 だけど今回はもう少し深いところまで突っ込んで話を聞いてみて、もしも勉強の道へ進んで、それが結果的に究められても究められなくても、結婚をしなかったと仮定したらそのことを後悔したかどうか、と訊いてみた。
 ようは僕が悩んでいる「もしも独身のまま老年期を迎えたら寂しいと思うか」という核心部を訊いてみたかったのだ。

 父は答えた。
 「学問を究めたいと思えばそれは膨大な労力が伴うだろうから結婚はできなかったかもしれない。そのときはただそれだけで終わりかもしれない。でも、もしも勉強のほうに進んでいたとしても、たぶん、どこかで誰か素敵な女の人と出会って好いたり惚れたりして、けっきょく結婚はしていたと思う」だそうだ。
 僕は念を入れて「万が一にも結婚しなかったとしたら?」と訊いても「まず99%、いや100%誰かと結婚していたと思う」と言われた。
 うん、僕なんかとは大違いだった。

 父はいつもじっとしていて大人しいから消極的というか、受け身な性格だと思っていたのだけど、これがとんでもない間違いだったと近年になってから僕は気づきはじめていた。
 やるときはやる、なんていうと陳腐に聞こえるかもしれないけど、本人がいままでやってきたことを考えるととてもではないけど真似できないほどアグレッシブだ(細かく書くと長くなるので割愛)。
 まず普通の人にはできないような活力と推進力を持っていた。
 そう考えると僕がうしろ向きなのは親のせいでもなんでもなく、ただただ僕が怠慢なだけなのだなぁ、と気づかされてしまった。
 薄々そうは思っていたのだけど、僕は母のような元気ばりばりではないし、父のような胆力もない。
 すべてにおいて人並みな僕が父のような思考はもてないと思った。

 で、そんなめちゃくちゃアグレッシブな面も持ち合わせていた父のことだから結婚もできたのだと思ったけど、じっさいに結婚をしたいというか、かならず自分にぽっちり(土佐弁?で「ぴったり」という意味らしい)な女性と、ぽっちりな親友が世界のどこかにかならずいる、と思っていたらしい、上にも書いたように。
 結果からすれば女性はともかく、親友とは出会えなかったのだけど、それでも「かならず結婚するだろうと思っていた」という自信(というか予感みたいなものらしい)は事実になって僕が生まれた。
 それでそもそも消極的でも女性が苦手でもない父は結婚していまに至るわけで、それに付け加える形で言っていたのだけど「それに一人だとたぶんつまらないよ」ということで、僕と同じように父も一人でいることが苦にならない性格でありながら、やはり真に一人きりだと刺激がなくて退屈になるらしかった。
 肝心の寂しいと思うだろうか、という質問はけっきょく独身の可能性0%ということで教えてくれなかったけど、たぶん「つまらない」のなかに含まれていたのではないかな、と僕は思う。そう思いたい。

 という感じで話は終わって、僕は考えてみた。
 僕は別段、結婚がしたくないわけでもないし、女性が苦手なわけでもない。
 いままで女性と付き合ったことはないのだけれど、それは女性に興味がないというよりは「付き合ってどうするのか」がわからなくて不安だったのだ、とっても。
 高校生とか大学生がどんな感じに付き合うかは、大まかには知っているつもりだ。
 ただ、中学生や高校生のときに異性と付き合って、行き着く果てがないのではないかとずっと不安だった。
 フラれるフラれないは付き合う以前の話だからそんなに不安でもなかったし(告白してフラれたらいやだなぁ、とは思っていたし、その勇気があったのかと訊かれたらあったと答える自信はないけど)、なによりも恋人になった先が見えなくて怖かった。

 大人になれば結婚できる。
 男性も女性も、とりあえず学生を終えて社会人にさえなればあとは夫婦にもなれるし、事情があれば内縁の関係で同棲することだってできる。
 とりあえず、恋人の先があって、それは生涯にわたって「いっしょになる」ことだと思う。
 でも中学生や高校生は、学生の範疇で考えれば大学生も含めて、付き合っても恋人どまりで結婚はできない(できたとしても関係を続けていくのが多方面から考えて難しいと思う)。
 告白して、付き合って、デートして、遊んで、キスして、体を重ねて、でも子どもは作れないし結婚もできない。
 先があるのに先へ進めない。
 それがすごく不安だった。

 いっしょにいるだけでいい、という言葉はわかる。
 結婚だって法的な拘束力と社会的な体裁を抜きに考えればほとんど同棲と変わらない。
 付き合うことはなにも停滞を意味しているわけではなくて、本意は好きな人といっしょにいることなのだろう、とは思っていたけれど。
 でも僕にはそのなにも束縛も枠組みもない男女の付き合い(関係)が非常に不安定で怖かったのだと思う。
 もしくは夫婦というものは生涯寄り添いあって添い遂げるものだと思うかたわら、未成年の恋人というものは儚くて壊れやすいものだといつの間にか思い込んでいたのかもしれない。
 そういう心から慕っている関係が崩れるのが怖くて避けていたのかもしれない。

 そろそろ書くのも疲れてきたので結論だけ書いておくと、僕はもう成年であって結婚もできるし、子どもも作れるし、だから行けるところまで行っていいのだからもっと異性にポジティブになって、怖がることなく好きな人には気持ちをぶつけてみて、いっしょにいたいと思う人を見つけていくべきなのかもなぁ、とそう思った。
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