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 半分の月がのぼる空3 wishing upon the half-moon (橋本紡/電撃文庫)


 この終わり方はひどい。早く次巻を読まないといけないではないですか(笑)。
 加速していく物語、半月3巻。

 今回はかなりきついです(いちおう誉めてます)。
 前回まで――2巻のラストは別ですが――裕一と里香の内面に関して描かれていたのですが、今回から周囲の大人まで描写されるものだからとにかく暗いです。
 ただ暗いだけでなく、ひどく現実的で痛々しく、生々しいのですね。いつか裕一と山西が言っていた「大人になることに希望も夢も見出せない」という言葉を実際の登場人物を用いて描写した印象です。
 過去の何かに囚われつづける夏目。自分の適性と資質に疑問を抱く亜希子さん。都会を夢想し現実にぶつかる美沙子。
 一つ上の世代が先に大人になり、如何ともしがたい現実の大きさ、厳しさを味わって挫かれる様は悲惨でむごたらしいです。
 でもそこは大人なので割り切ってしまうのですね。現実なんてそんなものだ、と諦めをもって強引に前へ進むのです。
 そこがまだ「子供」である裕一や山西らと差別化して描かれているところなのですね。
 大人とはいえ、けっして強いとは限らないのが個人的に良かったです。

 ただ、大人の描写量が多い中、裕一も負けてはいません。里香の望みに従って彼女に尽くす姿も健気ですが、その一方で彼がただの17歳の少年に過ぎないことを思い知らされる話の展開には思わず呻いてしまいました。
 どれだけ背伸びしようと、良くしようとしても所詮はただの17歳。そこに救いはなく、甘えも許さないのは充分に痛々しかったです。あまりに無力で俗物で何もできない裕一が可哀想です。

 そして最後の追い討ちをかける『チボー家の人々』。ひび割れた裕一の心に里香の透きとおった気持ちが染み入るシーンはもう悲惨すぎて見ていられないです。

 誰もが心に傷を持ち、現実に打ちひしがれる痛々しさ。そんな感じの一冊でした。
 終わり方が凶悪なので4巻が楽しみなようで怖いような……。早めに読みたいです。


 9/14(木)読了
 評価:★★★★☆+
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 半分の月がのぼる空2 waiting for the half-moon (橋本紡/電撃文庫)


 これまた、ぎっちりとした話になりそうですねぇ。
 前回の多田コレクションをネタに話が進む第2巻。

 読み終えた直後の全体的な感想としては、やっぱり上手いなぁと思いました。
 何が上手いかというと人々(特に少年少女)の苦悩や懊悩、挫折に絶望、悔悟に蹉跌などなどの描写です。
 多すぎず少なすぎず、適切な分量と描写に必要な範囲の枠組みを正しく守って描いたような印象です。

 内容はまあ里香と裕一の関係が揺れて揺れて、なのですが、そこに新キャラの夏目も加わりもっと複雑になりそうです。
 ようやく今回でお膳立てが済み、次巻から本筋に入りそうな気配ですが、裕一と里香を中心に周りのキャラを含めてどう膨らませていくのか気になります。
 病院が舞台で要なのは里香の病気なので、極端なことを言えばストーリー性を盛り込むことが難しいのですよね。だからこそ描写が大切になってくるのですが、その辺りをどうカバーするのかも見所かも。

 あと逆に理解できないというか、感情移入できなかった部分が二箇所。
 まず、里香が殺人未遂で逮捕な件。二人が不仲になってツンツン度が増すとはいえ、まかり間違えば死んでしまうようなことを平気でする、というのが信じられませんでした。可愛いから許されるとかいう範疇を超えてると思います。
 もう一つは受け手の裕一の入れ込み方が異常な件。真剣に死に掛けているのに「可愛いから」とか「命を捨てても平気なほど好きだから」とか、そういう理由でいつまでも諦めないのが信じられませんでした。
 青春だからとかではなくて、たとえば僕だって好きな人が命の危機に瀕していたりしたら死ぬ気で助けると思いますが、女の子の気を引くためだけに死に掛けるなんて考えられません。
 この辺は僕の感性の問題なのかもしれませんが、感情移入できなくて面白さプチマイナス。

 さて、里香の病気もそうですが、個人的には司や夏目、亜希子さんといった端役の話も気になります。どうなるのかなぁ。


 9/11(月)読了
 評価:★★★★☆-



 半分の月がのぼる空 looking up at the half-moon (橋本紡/電撃文庫)


 ちょうど完結したようなので一気に読んでみたいと思います。
 魔法も超能力も出てこない、普通のボーイミーツガール第1巻。

 病院が舞台という時点で終着点が見えそうなものですが、まだまだ序の口の導入部分。
 とりあえず初めなのでヒロインの里香が難病設定のツンデレ(これは編集部の意向なのかな?)で、出会ったばかりの主人公に辛辣でありながらホロリと心を通じ合わせるところでひと段落。土台を敷いたような感じですね。
 主人公の裕一はわりと典型的な流され気味の少年なのですが、父親の言葉などを頼りにこれから成長していくのでしょう。

 内容的にまだまだ駆け出しなので何とも言えませんが、構成的に良かったところを。
 中盤あたりからの里香と裕一の関係を進ませる前段階として、(多田じいさんの死を持って死の身近さや唐突さを)演出したのは上手いと思いました。
 あれはつまり、(多田さんのようにこれからいつ里香が死んでしまってもおかしくありませんよ、と忠告されたようなものですよね。)僕はそう解釈したので終盤の里香の儚さにも共感できました。

 それと相変わらず文章が読みやすくていいですね。佐藤ケイさんに似て難解な語句を使わないのに的確な表現をしていくのって結構むずかしいと思います。

 これからが本番のような終わり方なので、いったいどのような物語を見せてくれるのか楽しみです。


 9/10(日)読了
 評価:★★★☆☆+



 毛布おばけと金曜日の階段 (橋本紡/電撃文庫)


 上手いなぁ。魔法も異能力も出てこない普通の青春群像小説なのだけど、無駄なく必要なものだけを適度に盛り込んだあっさり感といい、ナイフをさくっと滑り込ませるような秀逸な描写がたまらなく上手いです。
 『リバーズエンド』のときはそれほど面白く感じなかったのですが(自分の読みが浅かったのでしょう)これはまさに直球で少年少女を描いています。

 描かれているのは誰もが持つ心の歪みです。
 誰が傷つくわけでもなく、誰が悲しむわけでもない。居心地のいいぬるま湯のような感覚。しかし正しいとは言えない歪みを誰もが持っています。
 その歪みは時に醜いものだったり、時に卑しいものだったりするので真正面から捉えるのは恥ずかしいし辛いものです。
 でもいつか正しい方向に修正しなければいけない。あるべき形に戻さなければいけない。
 その際に感じる傷の痛み――それはきっと大人へと成長していくために必要なものなのでしょう。

 この作品はそんなどこにでもいる少年少女の小さな歪みと、それにまつわる愛と温もりの物語です。

 あ、でも毛布おばけそのものの描写が少なかったのは惜しいかも。


 9/8(金)読了
 評価:★★★★☆+



 とある魔術の禁書目録6 (鎌池和馬/電撃文庫)


 氷華のビジュアルが好きです。いえ、中身も好きですが(苦笑)。
 魔術と超能力の入り乱れ学園アクション第六弾。
 今回のテーマは「人間と呼ばれるための条件」と「友だち」ですね。比重は「友だち」よりですが個人的には前者のほうが印象的でした。
 こういった言葉遊び的設定を巧みに盛り込んだ作品はタイプです。

 内容はいつも通りで単発事件に巻き込まれる当麻一味。やっぱり切ない事情を背負ったキャラたちが己の信念のために熱く戦います。
 どこまでいってもいつも通りなのですが、ただ今回のある人物の会話で、今まで遭遇した事件を通した遠大な陰謀が隠れている模様。
 どうもインデックスよりも当麻が中心のようですね。
 謎の右腕を持った当麻を、次はどんな困難が待ち受けているのか。楽しみです。


 9/7(木)読了
 評価:★★★★☆-


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